君たちはどう生きるか(小さな意思がつながって世界は動いている)




1937年に出版されて以来、数多くの人に読み継がれてきた、吉野源三郎著「君たちはどう生きるか」。

「いまは亡き著者と、これをいま出版しようと考えた編集者と、この本に正面からぶつかろうと思った漫画家に、カーテンコールのように拍手を続けています」

糸井重里

 

「逆境や苦しみを感じるのは、前進している証だ。考える、悩むことに価値がある、と励まされている気がしました」

松浦弥太郎

などなど各著名人からも絶賛されている本です。

そしてあの復活を宣言した宮崎駿監督の次回作の題名も「君たちはどう生きるか」になると明らかになりました。

宮崎駿監督、新作タイトルは「君たちはどう生きるか」

現在、話題沸騰中の漫画版を読んだ感想と内容を元にもうアラフォーではありますがこの先どう生きるかを考えていきたいと思います。

80年前に書かれた人生指南書

この本は今から80年前の1937年(昭和12年)に出版されました。当時は戦前、大日本帝国時代で7月に盧溝橋事件が起こり、これを機にのちに日中戦争が勃発するなどの太平洋戦争に突き進む日本の一歩手前のような時代です。

1937年銀座にて

そのような中、主人公のコペル君(中学生)と転職活動中のおじさんが会話や手紙等のやり取りを通じて、人間としてあるべき姿を学んでいく内容です。

時代感は多少あるものの、そこまで違和感なく読んでいける内容となっています。

人間は分子のように世の中の流れを作っている一部

コペル君は知的で勉強ができそうな中学生です。彼は授業で物事を拡大していくと物を構成する最小単位である分子にたどり着くことを学びます。

そのことが頭から離れないまま、ある日おじさんと銀座のビルの屋上から道を歩く人々の流れを眺めます。小さい人々を俯瞰していると、ふと自分もその流れの中に入るように感じます。そしてこのように思いつくのです。

人間は分子のように世の中の流れを作っている一部なのかもしれない。

それを聞いたおじさんは彼の聡明さに驚くと同時に、「ものの見方」についてこう教えます。

「子供のうちは自分中心で世界が動いていると考えるが大人になるとその見方は変わり、広い世間と言うものを先にして、その上で色々と物事を理解していく。しかし大人になっても自分中心で考えてしまいがちで、時に損得の問題になると自分を離れて考えることは非常に難しい。しかし、世の中の波は自分中心ではなく一つ一つの分子が動いて(人々の営み)作られるものでそれが宇宙の真理であることは変わらない。」と

人間は社会的生き物であるがゆえに自分一人の利益を考えるよりも全体の利益を考えたほうがうまくいくはずです。しかし昨今の世界の社会情勢は全体の利益ではなく、個々の国々や民族、世代の利益のみを考え、分子がくっつくのではなく分離していくという宇宙の審理を無視した流れです。それは自分の利己心を捨て生きるのが難しい事を物語っています。だからこそ、もっと広い視点でものの見方を変えることが重要なのです。

人間分子の関係、網目の法則

コペル君は粉ミルクを取ろうとしたときにその粉ミルクのバックボーンを感じます。それはコペル君の手元に粉ミルクの缶が届くまでに知らない人たちが関連していることに気付くのです。

例:粉ミルクの単純な関連性(実際はもっといます。)

オーストラリアの酪農家→粉ミルク加工業者→船(国際輸送)→港湾作業員→配送→店員→母親→コペル君

そして自分が生きている世界は様々な人たちがともに関係しあって成り立っていることを悟り、それを「人間分子の関係、網目の法則」と名付けその内容を書いた手紙をおじさんに送ります。

おじさんはコペル君からの手紙を受け取り返信します。

おじさんはコペル君の名付けた言葉を「生産関係」と呼ぶことを教えます。それは人類が小さい村から町、国、世界とつながっていくうえで成り立っていく社会の仕組みであること。しかしそれは分子と分子のつながりのように人間らしい人間関係になっていないことを伝え、人間らしい関係とは母親や友達との関係性のように人間が人間同士、お互いに、好意をつくしそれを喜びとすることではないかとコペル君に問いかけます。

インターネットもある現代では、80年前では想像できなかった様々な人々とのつながりも可能となりましたが、量は増えたが質があがったのかと言われれば本当のところはわかりません。ただ当時よりも世界はひとつになろうとし取り組んできましたが、それもここ2、3年で揺らぎ始めています。

ただ、この生産関係のように自分が生きているのは誰かのおかげでもあるし、また誰かのためにでもなっているということでしょう。私自身それをもっと感じ取れれば仕事に対してもポジティブに取り組めるのかなと思いました。

ナポレオンの話

コペル君の友達ガッチンはある日、コペル君に自分がナポレオンのような強い人間になれるよう伝記を持っていないかと聞きます。コペル君は元編集者のおじさんなら持っているのではないかということになり、友人たちと一緒におじさんを訪ねます。

おじさんは伝記の本はもっていないが知っているナポレオンの話を彼らにします。

ナポレオンの英雄話を聞き、少年たちは気分が高揚します。するとガッチンが皆に自分が上級生に狙われていることを告白します。それを聞いた彼らはガッチンを守ろうと決め約束します。

それを見ていたおじさんは後日、コペル君に「偉大な人間はどんな人間か」を教える手紙を送ります。

そこにはナポレオンの偉業とその後の没落を教えるとともに、ナポレオンのどんな困難な立場に立っても微塵も弱音をはかず、どんな苦しい運命に出会っても挫けなかった、その毅然たる精神を深く学ばなければならないと伝えます。

そして手紙の最後に

君も大人になってゆくと、よい心がけをもっていながら、弱いばかりにその心がけを生かしきれないでいる、小さな善人がどんなに多いかということを、おいおいに知ってくるだろう。

世間には、悪い人ではないが、弱いばかりに、自分にも他人にも余計な不幸を招いている人が決して少なくない。

人類の進歩と結びつかない英雄的精神も空しいが、英雄的な気概を欠いた善良さも同じように空しいことが多いのだ。

と綴ります。

英雄ナポレオンを通して人間の精神や誇りについてどうあるべきかを少年達に問うのですが、ナポレオンを肯定しているのか否定しているのかよくわからない文章が続くので伝えているおじさん自身が定まっていなく「よい心がけをもっていながら、弱いばかりにその心がけを生かしきれないでいる、小さな善人」はおじさんなのではないかと思ってしまいました。

ナポレオンは時代の流れなどあり、一概には言えないのですが人類の進歩は後に歴史が証明するだけで、その時点で本人は意識していないはずです。空しいか空しくないかは他人の評価でそれを気にしては前進できないから自分を信じて信念を貫け!と言ったことを伝えるわけでもなく何が言いたいのかはっきりしないよくわからない手紙の内容でした。

自分で自分を決定する力

ガッチンを守ると約束したコペル君でしたが、いざ上級生にからまれた際、びびってしまい何も出来ず、友人たちが上級生に殴られているのを遠目で見ているのでした。

みんなを裏切った自分を悔やみ、そして家に閉じこもり学校に行かない日々が続くのでした。

ずっと後悔し閉じこもっているコペル君はもしかしたらおじさんならこんなぼくを救ってくれるかと思い、仲間を裏切った話をし、おじさんに自分が後悔していることを友人たちに話、許してもらおうと頼みます。

そんな浅はかな事を考えるコペル君をおじさんはたしなめます。

変えられない事を考えるのをやめれば余計な感情に足をとられない。いま自分がしなければならないことにまっすぐ向かっていける。

コペル君は友人たちに恐れずちゃんと謝ることを心に決めます。

友人に謝る手紙を書いたあと、おじさんからのノートが届きます。

そこには

コペル君 いま君は、大きな苦しみを感じている。なぜそれほど苦しまなければいけないのか。それは君が正しい道へ進もうとしているからなんだ。だけどきっと君は自分を取り戻せる。人間は自分で自分を決定する力を持っているのだから

コペル君は友人への裏切りで悩んでいますが、現代人のアラフォーに置き換えると現状はもう少し複雑で過酷です。

  • 歳をとって若い時ほど元気がない
  • 40代は転職も厳しい。ましてやフリーで生きていくなんて死ににいくようなものだ
  • 少子高齢化が進む日本に今後希望なんてあるの?
  • 自由に生きたいなんて。まわりの人たちにバカかと思われないか?

などなど、ネガティブな考えばかりが頭に浮かびます。

しかしこの本に書いてあるように考えることを一度やめ、自分のこころの中に相談すれば本当に向かうべき道が見えてくるのでしょう。それはなにがあっても自分を取り戻せる。人間は自分で自分を決める力を持っているのだから。

自分の信念に従う事は年齢など関係なく正しい道だということです。

なんとなくそんな事を考えながらこの章を読んでいました。

世の中を回しているもの

コペル君は正直にあやまり、友人たちに許してもらいました。(現実はそんな簡単に許してもらえるとは思いませんが・・)

そして人間同士の関係性をあらためて認識し、世の中は誰か一人の人間を中心に世の中は回っているわけじゃない。だとしたら何を中心に回っているのだろうと考えます。

そしてまた、以前のようにおじさんと銀座の屋上から道行く人々を眺め、こう考えました。

世の中を回している中心なんてもしかしたらないのかも知れない。誰かのためにという小さな意思がひとつひとつつながって僕たちの生きる世界は動いている。

そして、その考えを持ちこれからも生きていく

ここで物語は終わります。

最後まで読んでこの本は最初から最後まで人と人とのつながりの意識、自分自身も大きな流れのひとつである自覚と言ったものが本筋にあったような気がします。

まとめ

まとめというか全体の感想になりますが、この本は中学生にはちょっとむずかしく、大人には物足りない内容でした。人生の指南書と言うよりも道徳の本に近い内容で特に考えさせられるわけでもなくスラスラ読めます。

全体を通して流れる、「世の中を回している中心なんてもしかしたらないのかも知れない。誰かのためにという小さな意思がひとつひとつつながって僕たちの生きる世界は動いている。」といった思想は協調性を重んじるいかにも日本人的考えでいまさら感もあります。しかし現代のトランプ大統領が当選し、メキシコとの間に壁を作るとかイギリスのEU脱退、フランスの極右政党の躍進、日本ではヘイトスピーチなど国や民族同士の関係性を思いやる重要性は時代にあっているのかも知れないのかなと思いました。

ただ、いま日本に必要なのはイノベーションや本当の自立というものは強調していくのではなく、大きな夢を持ち、台風の渦のように周りを巻き込み事をなしていく幕末の坂本龍馬や現代の孫正義のような人物が必要だと思います。しかしこの本にはそのような思想よりも人を重んじる和の思想が強く、いい人になりたいには良いが自由に生きていく上で参考になる部分はあまり僕にはありませんでした。

ただ大人には物足りませんが思春期のお子さんがいる人にはおすすめできる内容かと思います。

コチラもおすすめ!https://kakkoii-life.com/2017/12/30/2017_bestbooks/

お金2.0は意識高い系の人向きの内容

                     




コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です